秋の冷たい風が吹き抜ける放課後の校庭。悠真と透の二人は無言で並んで歩いていた。先日の些細な口論から、微妙な距離感が生じてしまい、互いに気まずさを感じている。
「悠真、あの日のこと…」透が静かに口を開く。透の表情にはどこか寂しげな影が見えた。
「…何もなかったことにしよう。俺が、ちょっと冷静じゃなかっただけだから」悠真はあくまで淡々とした口調で返すが、その眼鏡越しの瞳にはどこか曖昧な感情が宿っていた。
二人は沈黙したまま校舎の影に隠れ、誰もいない場所に足を運ぶ。透は何かを言いたそうに悠真を見つめていたが、言葉が喉の奥で絡まってしまい、うまく伝えられないでいる。
ふと、悠真が透の手を取った。その手のひらは驚くほど冷たく、思わず透の体が小さく震えた。
「お前、本当に何も気づいてないのか?」悠真が低い声で問いかける。その声にはこれまで見せたことのない、切実な響きが含まれていた。
「何を…?」透は不安げに目を逸らしながらも、悠真の手を握り返した。その瞬間、二人の間に一瞬の静寂が流れた。
「お前が他の誰かと一緒にいるのを見ると、俺がどう感じるか…お前にはわからないのか?」
悠真の言葉に透は驚きの表情を浮かべる。これまで悠真がこんなにも正直に感情を表すことなど、想像もできなかったのだ。透の心臓が激しく鼓動し、彼の口元が少し震えた。
「悠真…」透は言葉を絞り出すように返す。「俺だって、悠真のことを特別に思ってる。けど、どうしてこんなに不安になるんだろう?」
悠真は優しく透の肩を抱き寄せた。彼の腕の中で透はほんの少しだけ安心を感じたが、その一方で二人の関係がさらに深まっていくことへの不安も増していた。
「俺がいる。お前が不安に思うことなんてない。」悠真が耳元で囁くと、透はその温もりに包まれながら目を閉じた。今この瞬間だけは、全てを忘れていたかった。
次回予告
透の気持ちを知った悠真は、さらに透を守りたいという思いを強くする。しかし、二人の関係をよく思わない生徒たちの影が忍び寄り、次第に二人の時間に緊張が生まれていく。果たして二人はこの試練を乗り越えられるのか──。
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