屋上での昼休み、秋の柔らかな陽射しが二人を包む。いつものように椎名 悠真(ゆうま)と高槻 蓮(れん)は、ただ静かに空を見上げていた。お互いの言葉がなくても、彼らにはどこか通じ合っているような心地よさがそこにあった。しかし、悠真は最近の蓮の態度に気づき始めていた。微妙な距離感、そして目を伏せがちな仕草。まるで何かを隠しているかのようだった。
「最近、何か悩んでる?」悠真がさりげなく問いかけると、蓮は驚いたように目を丸くしてから、微笑んだ。
「そんなことないよ。ただ、少し考え事をしていただけさ」言葉は穏やかだが、その奥にある感情を感じ取った悠真は、無言で蓮の肩に手を置く。触れた瞬間、蓮の体が一瞬だけ緊張したのを感じ取り、心の奥がざわついた。
一方で蓮の心は不安に揺れていた。悠真への想いが抑えきれなくなりつつあり、それを悟られることが怖かった。しかし、その手の温かさに触れるたびに、どうしようもない感情が湧き上がってくる。
「椎名、君は…自分のことをどう思ってる?」蓮はふと、思わずそんな問いを口にしてしまう。悠真は少し驚いた表情を見せたが、やがて真剣な眼差しで蓮を見つめ返した。
「僕は、君と一緒にいると安心できる。誰にでもそう思うわけじゃないし、僕にとって君は特別だよ」
その言葉に蓮の胸が高鳴る。悠真の言葉には曖昧な部分が多いが、どこか心が震えるような響きがあった。これまで押し殺してきた気持ちが、もう少しで爆発しそうなほどに溢れ出しそうだった。
しかし、蓮はまだ踏み出せない。心のどこかで、悠真を傷つけてしまうのではないかという恐怖が彼を縛っていた。だが、悠真の手はそっと蓮の手の上に重ねられたままだった。その温もりが二人の間にある微妙な境界線を少しずつ溶かしていくかのようだった。
「ありがとう、椎名」と呟く蓮の声は小さく、風に溶けていった。
二人だけの静かな時間が続く中、悠真は少しずつ蓮の心の奥に秘められた想いに気づき始めているのかもしれない。しかし、まだそれを口に出すことはなく、ただ静かに蓮の隣に寄り添うだけだった。
次回予告
悠真と蓮の関係が少しずつ近づき、微妙な感情の揺れ動きが続く。蓮が自らの想いをどう向き合うのか、そして悠真がそれにどう応えるのか…。二人の関係が変化する瞬間が近づいている。
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