悠真は図書室で一人、何度もページをめくりながらも、その内容は頭に入ってこなかった。彼の心は、最近急に距離を縮めてきた司のことばかりで埋め尽くされていた。つい先日まであんなに冷たかった彼が、なぜ今になってこんなに近づいてくるのか――。その疑問が、悠真の胸をかき乱していた。
「悠真、ここにいたのか」
突然の声に顔を上げると、そこには司が立っていた。彼の鋭い視線が悠真を捉え、まるで逃がさないような圧力を感じる。悠真は無意識に眼鏡を直しながら、心の乱れを隠すように問いかけた。
「どうしたんだ?何か用事でも?」
「いや、ただ…お前の顔が見たくなった」
その言葉に、悠真の心臓が一瞬止まるような感覚が走った。だが、すぐにその意味を疑い、冷静さを装う。
「また、冗談か?司は本当に意地悪だな」
「冗談じゃない。本気だ」
司の言葉は鋭く、真っ直ぐだった。悠真はその視線に耐えきれず、目を逸らした。その瞬間、司は悠真の手を取り、強引に引き寄せた。温かな彼の体温が悠真に伝わり、頭が真っ白になる。
「な、なに…?」
「俺はお前のことが知りたいんだ。ずっと遠くに感じていたから、もっと近くにいたくて…」
司の言葉に、悠真は自身の心が跳ね上がるのを感じた。でも、この気持ちが本当なのか、それとも一時的なものなのか、わからなかった。
「そんなこと、急に言われても困るよ…」
「急じゃない。俺はずっと、お前を見ていたんだ」
その言葉の重みが、悠真の心に深く突き刺さる。いつも冷たく感じていた彼の視線は、実はこんなにも温かく、自分を見つめていたのか――。
「司、僕は…」
何かを言おうとした瞬間、図書室のドアが開き、別の生徒が入ってきた。その瞬間、二人の世界は現実に引き戻される。悠真は司の手を振りほどき、心の中で叫ぶように自分に言い聞かせた。これ以上、彼に深入りするべきではないと。
「授業が始まるな。戻ろう」
そう言って悠真は早足でその場を離れた。司はそんな彼の背中を見送りながら、小さく呟いた。
「逃げても無駄だ、悠真。俺は、お前を絶対に離さない」
次回予告
悠真の心に響いた司の言葉。しかし、距離を置こうとする悠真に司は次なる一手を打つ。彼の本当の気持ちに気づいたとき、悠真は何を選ぶのか――。
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